「ルカシェンコはロシアの協力者です」―ベラルーシ反体制派の指導者スヴャトラーナ・ツィハノウスカヤ(スヴェトラーナ・チハノフスカヤ)へのインタビュー

「ジェチポスポリタ」 2022年3月24日付
https://www.rp.pl/polityka/art35939431-cichanouska-bialorus-jest-juz-czesciowo-okupowana-przez-rosjan

数日来、アレクサンデル・ルカシェンコが自分の軍隊をウクライナに派遣するのではないかという情報がしきりに流れています。彼はこのようなことをやるとお考えですか?

一方で、それはルカシェンコにとって得ではない、ということを私たちは理解しています。そんなことをすれば、彼は侵略者となり、私たちの国をどん底に引きずり込むことになるだろうからです。彼がこれまでやってきたこと自体が、すでに拭い去ることのできないものです。しかし、自国の軍隊を送れば、彼のおかれている状況をむずかしくするばかりです。クレムリンは、自分が孤立しないためにルカシェンコに軍を送れと要求しているのだと推測できます。しかし、わが国の軍隊はウクライナに派遣されていません。軍の内部に大きな抵抗があるためだと私は思います。指揮官たちは、兵士たちをウクライナに送れば死地に赴かせるようなものだと理解しているのだと思います。加えて、ベラルーシ軍は規模の大きな軍隊ではなく、戦争する準備ができておらず、状況を特別に変えるものでもありません。しかし、クレムリンは、ルカシェンコの体制を血で汚しておきたいのです。ベラルーシでは、強力なプロパガンダによって、ウクライナにはナチス主義者がいると人びとに吹き込もうとしています。しかし、ベラルーシの兵士たちはすべてをわかっていて、ウクライナ人は私たちの兄弟であると認識していると私は信じています。兄弟とどうして戦争ができるでしょうか?

ルカシェンコに忠実な治安機関の職員たちは、ためらうことなく2020年の抗議活動を鎮圧し、拷問し、自国民に発砲することさえしました。

武器を持たない人びとを殴りつけるのに、たいした勇気は必要ありません。しかし、よく準備されたウクライナ軍と対抗できますか? ましてや、ベラルーシ軍よりもチェチェンやシリアの武力紛争に参加した経験豊富なロシア軍に起こったことを見たあとですからね。ロシアは高位の指揮官さえ失っています。

それでもベラルーシの独裁者がもしそのような決定を下せば… それはベラルーシにとって何を意味することになるでしょうか。

まちがいなく経済制裁が強化されることになるでしょう。新たな、はるかに痛みをともなう制裁が導入されるでしょう。加えて、ロシアから撤退した外国企業が、ベラルーシではまだ営業しているのです。これらの企業にとって、それは撤退の合図となり、レッド・ラインになることでしょう。しかし、それ以上にそれは、国外にいるベラルーシ人にとって、さらに大きな打撃となるでしょう。というのも、戦争が起こってから、私の同胞に対する差別が押し寄せてきたのです。ポーランドやウクライナの一般の人たちは2020年にベラルーシで起こったことについてはそれなりに聴いたことがあるでしょうが、その後の経過となると誰も追いかけていないのです。しかし、私たちは闘い続け、抑圧が続き、政治犯は獄中にあります。加えて、私たちは、ウクライナの人たちがルカシェンコにどのように関わっていたかを覚えています。彼はウクライナでかなりの支持を受けていたのです(キーウの調査機関KMISが2021年2月に行なった調査では、ウクライナ人のうち36%がルカシェンコを、26,7%がバイデンを、26,2%がマクロンを信頼していた――編集部注)。ところがいまでは、ウクライナ国境でベラルーシ人のパスポートが破り捨てられているという情報が流れています。そのようなケースがどれほどの規模で生じているのかはわかりませんが。チェコ人はベラルーシ人への査証の発行を停止したので、私たちが介入しなければなりませんでした。私たちは、ベラルーシ人が存在することを思い出させなければならないので、ウクライナのメディアにも絶えず登場するようにしています。

2020年のベラルーシにおける大統領選挙の後、あなたは、アメリカの大統領を含めて、おそらくすべての西側の指導者と会談しました。しかし、キーウには招かれませんでしたね?

招かれていません。私たちはウクライナの議員たちとはコンタクトをとっていますが、キーウの政権は私に対して慎重な態度をとってきました。それは理解できることです。彼らはベラルーシと商売上の強いつながりを持っていますから、キーウではおそらく、ルカシェンコと仲よくしておくほうがよいし、ロシア軍を引き寄せるべきではないと考えられていたのです。

ポーランドはウクライナにNATOの平和維持軍を派遣することを提案しました。あなたはこの提案についてどう考えますか?

どんな手段であれ戦争を抑止することには意味があると私は思います。飛行禁止区域の導入と平和維持活動については、もちろん私たちは支持しています。包囲されて、何週間ものあいだ人びとが食料も電気も水もガスも奪われている都市から人道回廊によって避難する動きを、それが助けることになるからです。さらなる死を回避し、さらなる殺害を防ぐことが、それによって可能になるからです。モスクワは即座に、平和維持部隊の派遣はNATOとロシアの紛争に発展しうると釘を刺しましたけれども。

彼らはさらに核爆弾で世界を脅しています。怖れるべきでしょうか?

脅迫して怯えさせるのは独裁者たちの常套手段です。このやり口を私たちは知っています。これをどう扱うか、どの国もジレンマを抱えています。しかし、独裁者たちは予見できない存在でもあり、自分たちが沈んでいくときに他の人びともいっしょに引きずり込もうという前提から出発することもありえます。通常は専門家は何らかの合理的な見解をもとにして結論を導きだしますが、独裁者たちは合理性に反する決定をするのです。ですから、なにごとかを予測することは困難です。おそらく常にそういうものなのでしょう。しかし、私は、ロシアにはそういうことを止めることのできる人びとがいるという大きな希望をもっています。ロシアの侵略前に、プーチンはウクライナに侵攻するつもりだ、と世界が言い始めたとき、私たちは、ハッタリだろう、怖がらせているのだろう、と考えました。そんなことはまさかやらないだろうと考えていたのです。さらにお話しすれば、戦争が始まる数日前、私たちはアメリカの専門家たちと会談しました。彼らは口を揃えて、戦争になる、と言いました。私はそのときには、それはありえないことだ、と考えていました。

ベラルーシを支配しているのは、すでにルカシェンコではなく、プーチンだ、という見方が広まっています。これは正しいでしょうか?

ルカシェンコはロシア軍の移動をコントロールしておらず、どこから、だれに向けて撃っているのか関知していない、と私は考えています。他方で、彼は自国民を怯えさえ、抑圧を続けています。たとえ何らかの理由で彼が譲って国民と何らかの話し合いを始めたいと考えたとしても、どうやってロシア軍の兵士たちを追い出すのでしょうか? それは彼にはできない、と私は思います。

では、もし独裁者が交渉を提案した場合、たとえばヴェネズエラがノルウェーの仲介で反体制側と行なったようなやり方ですが、あなたは彼にチャンスを与えますか?

私たちは最初から話し合いに応じると言っています。そのような話し合いによってロシア軍が撤退し、政治犯が釈放され、弾圧が中止され、新たに選挙を行なうのであれば、です。そのときには私たちは体制側と話し合うでしょう。祖国を救わなければならないという条件のもとであれば、ベラルーシの社会は一致して話し合いを支持するだろうと考えています。私たちは、欧州安全保障協力機構(OSCE)を介して話し合い、私たちの条件を伝えようと試みてきましたが、なにも成果がありませんでした。ルカシェンコは、自分は全能なので譲歩はできない、と考えているのです。

元外交官で反体制派のパーヴェル・ラトゥシュコは、ベラルーシは暫定的に占領下におかれた国とみなされるべきだと世界に訴えています。実際にそうなのでしょうか?

私たちもそう言っています。部分的には、ベラルーシはすでにロシア軍に占領されています。たしかにまだロシア人が国を統治しているわけではありませんが。したがって、私たちは、国際社会が、私たちの国を事実上占領された国とみなして、ルカシェンコを完全に非合法化することを求めています。彼はすでに主権を保障する存在ではなく、現実とのつながりを失っています。世界はすでに、民主的な勢力を介してベラルーシ人と関係をもつべきなのです。たとえばベラルーシの在外公館の大使は、体制側ではなく、民主的勢力が任命するべきなのです。私は世界の指導者たちと会い、多くの国が私たちとコミュニケーションをとってきました。このこと自体がすでに承認のしるしなのです。しかし、いま必要なことは、それに各国が制度上のかたちを与えることです。なぜならば、現状では、彼らはルカシェンコを認めていないのに、彼ととり引きをする余地を残してしまっているからです。彼は自分のしっぽを追いかけてぐるぐる回っている猫のように、平和を守ると言いながら、自分の領土からウクライナに向かってミサイルを撃っています。ルカシェンコはつねに巧みに言を左右し、言い逃れようとします。こういうことを許してはなりません。いま、ルカシェンコはロシアの協力者となっています。ベラルーシの現状は、ヘルソン(ロシア軍に占領されたウクライナの都市――編集部注)の状況と比較できます。ヘルソンでは、人びとが通りに出て抗議すると、ロシア軍が彼らに発砲しています。

通常、いずれかの国が他国に占領されると、パルチザン戦争が起こります。そのようなシナリオあなたは想定していますか? すでに少なくとも500名のベラルーシ人がウクライナ側で戦っており、ベラルーシからの志願者の人数は増え続けています。カストゥーシュ・カリノーウスキ〔=19世紀のベラルーシ民族運動の指導者の1人。ロシア帝国とたたかうパルチザン集団を指揮し、逮捕されて処刑された――訳者注〕の名前を冠した大隊まで作られました。彼らはベラルーシの自由のためにも戦っているのだと語っています。

私が軍隊の指揮官として命令を発したり、防衛にとり組んだりする人間らしく見えないということは、自覚しています。しかし、そうすることが必要になれば、それをやります。いちばんよいのは、わが国の軍の組織なかに、軍にたいして権威をもつような軍人が現れることでしょう。ヴァレリー・サハシチク〔=ベラルーシ軍予備役陸軍中佐、ブレスト空中降下・突撃旅団指揮官。ウクライナでの戦争に参加しないようベラルーシ軍の兵士たちに呼びかけた――編集部注〕の発言をご覧になりましたか? 彼の姿勢もベラルーシ軍の兵士たちに影響を及ぼしたと考えています。

でも、歴史上、女性の指揮官も多くいましたね。エミリア・プラテル〔=19世紀前半、11月蜂起でポーランド軍リトアニア歩兵連隊の連隊長として戦いを指揮した――訳者注〕やジャンヌ・ダルクのように。

もしそのような役割を担う必要が生じれば、それをやります。しかし、軍人たちにとって権威をもつ人がいれば、その人を横におくほうがよいでしょう。そもそも私たちのたたかいは平和的な抗議、平和的な転換と結びついているのですから。私たちはそれができると信じてきたのですから。

18年の懲役刑を科されたシャルヘイ・ツィハノフスキー(セルゲイ・チハノフスキー)〔=2020年の大統領選に民主派の候補として立候補して逮捕された。ツィハノウスカヤの夫――訳者注〕が、あなたを今も支えてくれるでしょう。

もし夫がそばにいてくれたら、どんなに幸せなことでしょう。彼がもっている力の多くが私には欠けています。人びとをつかんだのは彼であり、彼からバトンを託されたのが私なのです。私は理想的なリーダーではありません。私はたんなるシンボルに過ぎないという人たちもいますし、私のことを政治的な死に体と呼ぶ人たちもいます。しかしまた、感謝のことばもたくさんもらっています。誰でもすべての人を満足させることはできないし、私はそのようなことは望んでいません。私には経験も確かなヴィジョンもないことはわかっています。それでも私は自分の力の及ぶかぎりのことはすべてやるつもりです。

スヴャトラーナ・ツィハノウスカヤは、2020年のベラルーシ大統領選挙に立候補した大統領候補のうちの1人である。もともとは彼女の夫シャルヘイ・ツィハノフスキーが立候補するはずだったが、逮捕されたため、夫に代わって無所属で出馬した。ルカシェンコ側からの妨害を受けながらも大きな支持を集めたが、投票の結果は、ルカシェンコが80.2%を得票し当選、ツィハノウスカヤは9.9%にとどまったと発表された。これに対して不正選挙の疑いがあるとして批判が高まり、大規模な反ルカシェンコのデモに発展し、市民と警官が衝突して多くの参加者が逮捕された。ツィハノウスカヤは隣国のリトアニアに逃れ、ベラルーシの民主派を代表するリーダーとして国外で活動を続けている。

ツィハノウスカヤは、夫が逮捕される前は教師・通訳として働いていて、立候補するまで政治活動の経験はなかった。そのような女性が民主派の指導者となり、各国の首脳と会談し、必要となれば軍の指揮をとる覚悟を語るところに、ヨーロッパ東部の同時代史のダイナミズムを感じる。

ベラルーシの反体制派のパルチザンが国内でロシア軍の活動を妨害し、ウクライナでの戦争にウクライナ側から参加しているのは、ウクライナでの戦争の行方が、ルカシェンコ体制とそれに対抗するベラルーシの民主化運動の将来を左右する問題であると認識されているためである。
参考:「ベラルーシにおけるロシア軍に対する妨害活動」 投稿日: 2022年3月21日

ルカシェンコは、ロシア軍がベラルーシ領内を通過してウクライナに侵攻することを認めたが、現時点までのところでは、ベラルーシ軍自体はウクライナ領内の戦闘に参加していない。今後、ベラルーシ軍がどのような態度をとるかは、ウクライナでの戦争の行方に影響する問題の1つである。インタビュー中でも言及されている、ウクライナ戦争に参加しないように呼びかけたヴァレリー・サハシチクのベラルーシ軍兵士たちへのメッセージ(ロシア語)は、動画で見ることができる。
https://www.wykop.pl/link/6545095/walerij-sachaszczyk-zwrocil-sie-do-bialoruskich-wojskowych/

【SatK】