「ベルリンの連帯コンサートは「侮辱だ」――駐ドイツ・ウクライナ大使アンドリー・メルニクは、シュタインマイヤー大統領の連帯コンサートへの招待に応じることを拒否した。このコンサートにはロシアの音楽家たちも参加していた。」
https://www.rp.pl/polityka/art35957801-ambasador-ukrainy-o-koncercie-solidarnosciowym-w-berlinie-afront
※ドイツのシュタインマイヤー大統領の主催で、3月27日にベルビュー宮殿(ベルリン)でベルリン・フィルとロシアのピアニストのエフゲニー・キーシンによって、ウクライナとの連帯を表明するコンサートが行なわれた。
このコンサートの趣旨について、ベルリン・フィルのサイトでは「自由と自決の価値を共有する信念のもと、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、ドイツ、日本などの音楽家が、ウクライナ、ロシア、ポーランドの作曲家の作品を演奏します」と説明されている。
プログラムでは、ウクライナの現代作曲家ヴァレンティン・シルヴェストロフの作品が最初と最後におかれ、さらにショパン、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチの作品が演奏された。
演奏者は、キーシンとベルリン・フィルのメンバー以外に、ロシアのバリトン歌手ロディオン・ポゴソフ、ベラルーシ出身のチェリスト、ウラジーミル・シンケヴィッチが参加した。ベルリン・フィルの首席指揮者でロシア出身のキリル・ペトレンコが指揮する予定だったが、急病のため沖澤のどかが当日のタクトをとった。
https://www.digitalconcerthall.com/ja/concert/54336
(3月29日現在、コンサートの映像は編集中で「近日中にアップされます」とのこと。)
※駐ドイツ・ウクライナ大使は、「ロシアの(!)ソリストばかりだ。(…)ウクライナ人はひとりもいない!(…)侮辱だ」とtweetし、コンサートを欠席した。
ドイツ大統領府報道官のツェルシュティン・ガムメリンは、ウクライナ大使の欠席についてTwitterで、ウクライナからベルリンに避難している音楽家もコンサートに参加していたことを指摘したうえで、次のように述べた。「このコンサートは、ウクライナのために共通の合図、その出身地にかかわらず平和を支持し戦争に反対するすべての人びとの合図を送る機会でした。私たちがともにこの合図を送ることができないことは残念です。」
これに対してウクライナ大使は、次のようにtweetを返した。
「やれやれ、どうしてドイツ連邦大統領にはそんなに認識することがむずかしいのか。ロシアの爆弾が夜も昼も都市に降り続け、何千もの市民が殺されているときに、われわれウクライナ人は「偉大なロシアの文化」を味わう気分にはなれないということを。以上。」
※このコンサートの最初と最後に作品が演奏されたウクライナの作曲家ヴァレンティン・シルヴェストロフはキーウ出身で、戦争を逃れてベルリンに避難しており、この日も最前列に座って演奏を聴いていた。その点では、大統領報道官の指摘するとおり、このコンサートはウクライナの音楽界に敬意を表する構成になっていた。
※たしかに、このコンサートでは、ソリストとしてロシアのピアニストと歌手、ベラルーシのチェリストが演奏し、曲目にロシア・ソ連の作曲家チャイコフスキーとショスタコーヴィチの作品が含まれていた。
しかし、駐独ウクライナ大使のtweet(とくに最初のもの)は、ロシアやベラルーシの音楽家がいま、ベルリンで、戦争に反対するコンサートに参加することの意味を十分に汲みとっていないように感じる。
ピアニストのエフゲニー・キーシンは、ロシア軍のウクライナ侵攻の3日後に、戦争に反対するメッセージをインスタグラムで公表している。
指揮をとる予定だったキリル・ペトレンコも、「プーチンの悪辣なウクライナへの攻撃」を非難する声明をベルリン・フィルの公式サイトで発表していた。
https://www.berliner-philharmoniker.de/en/news/detail/statement-on-russian-invasion-of-ukraine/
2人とも、祖国ロシアで演奏できなくなることを覚悟しながら、これらのメッセージを公表したはずである。
※以上のことをすべて認識したうえで、駐独ウクライナ大使の2度目のtweetの「ロシアの爆弾が夜も昼も都市に降り続け、何千もの市民が殺されているときに、われわれウクライナ人は「偉大なロシアの文化」を味わう気分にはなれない」という言葉には、たんなる言い訳ではない(たぶん本人にもどうしようもない)感情が表れているとも思う。人と人のあいだを分断し、越えられない溝を生みだす戦争は、ほんとうに罪深い。
【SatK】