「プーチンはイエスのよう」――アフリカでロシアは情報(歪曲)戦に勝つ

「ガゼタ・ヴィボルチャ」 2022年4月23日 執筆:Robert Stefanicki
https://wyborcza.pl/7,75399,28366815,putin-jak-jezus-rosja-wygrywa-wojne-dezinformacyjna-w-afryce.html#S.tylko_na_wyborcza.pl-K.C-B.3-L.1.maly

ロシア人たちは、アフリカのフランス語圏で集中的なプロパガンダ戦を行なっている。そのために彼らは、フランス軍による犠牲者が埋められていると称して集合墓地を掘り返す労さえいとわない。

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フランス軍は、マリにある軍事基地の近くで、遺体を埋めるロシア人傭兵をドローンから撮影した、と発表した。AFP通信によると、マリ北部のゴッシ軍事基地の付近で、遺体に砂をかける白人兵士の姿が映像から確認できる。

しばらくして、ツイッター上に、次のようなコメントを付した墓の写真が投稿された。「これこそまさに、ゴッシ基地を撤収したときに、フランス軍が残していったものだ。…われわれは沈黙していることはできない!」 書き手はユーザーネーム「ディア・ディアラ」で、プロフィールには「元兵士」で「マリの愛国者」とある。

フランス軍総司令部は、これは「情報攻撃」であると認めた。フランス軍によると、「ディアラ」は、おそらくワグネル軍団によって作られた偽アカウントであるという。

この傭兵軍団は、クレムリンによってとりわけアフリカで活用されており、戦闘員と軍事訓練の担当者を合わせて400~600名が――現地の政府の要請によって――マリに派遣されている。軍事訓練のほかに、ロシア人たちは、国の相当部分を支配している過激派に対抗する作戦を遂行している。

ワグネル軍団の黒幕は、プーチンと懇意で、特殊部隊とつうじたイェヴゲニー・プリゴジンである。彼こそは、2016年のアメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプを有利にするために、SNS上でトロール(荒らし)とボット(人間に代わって一定のタスクや処理を自動化するためのプログラム)を使った偽情報の拡散を組織した人物である。

「プーチン、あなたこそわれわれの時代のイエスです」

偽情報の拡散が明るみにでた後、西側はロシアの情報操作により敏感になり、対策を強化している。しかし、アフリカでは、まったく同じ手法が今でも用いられ、プーチンのファンを大量に生みだしている。

「イスマエル・サワドゴは、ロシア国旗を店で見つけることができなかったので、仕立て屋に旗を3枚作らせた。1枚はバイクではためかせ、2枚目はポンチョのように身にまとい、3枚目はコックの帽子のかたちにした」――ブルキナファソの「ワシントン・ポスト」通信員ダニエル・パケットのルポは、このような書き出しで始まる。ブルキナファソは、マリと並んで、モスクワの影響が急拡大し、パリの影響が縮小しているもうひとつの国である。

30歳の玩具店員であるサワドゴは、この服を仕立てるのに1週間分の稼ぎを費やした。「プーチン、プーチン、プーチンが好き!」と明言する。

ロシアの大統領のファンになったのは去年、フェイスブックでロシアのコマンド部隊の映像をみてからだった。この頃、イスラーム過激派が彼の故郷の村を襲撃し、弟が学んでいた学校を焼き討ちした。SNSをつうじてブルキナファソの住民に届いた情報によれば、悪いのは暴力をたきつけたフランスと西側であり、他方で、救出に向かう準備をしている英雄としてプーチンが描かれていた。

「ありがとう、プーチン。あなたは私たちの時代のイエスです」――サワドゴの携帯電話の画面に映し出された投稿の1つは、こう語っていた。プーチンの肖像は美しく、バイデン大統領とヴォロディミル・ゼレンシキーの姿は醜く、卑屈なかっこうで描かれていた。フランスが非難され、大文字で書かれたメッセージが無数に投稿されていた。「ウクライナ軍は敗北した」「これが西側とNATOの隠された計画だ… 目的はただ一つ、人間を非人間化することだ…」

西側を貶める投稿が24,000件に

アフリカにおける偽情報を追跡している組織によると、最近数か月のあいだに親ロシア的な内容の投稿がアフリカでますます増えているという。ロシアは、グローバルな影響力の拡大と稀少資源の確保を目指しており、最近では、ウクライナでの戦争をめぐる西側の語りをコントロールしようともしている。アフリカの人びとは、NATOが侵略者であり、モスクワはウクライナで人道的な使命を果たしていると告げられている。

ここ数年で、フェイスブックは、アフリカをターゲットにした数百件の「ほんものではない」アカウントを繰り返し削除してきた。これらの偽アカウントの多くが、ロシアとプリゴジンに関係していた。2019年のフェイスブックの報告によると、これらのアカウントは、次の8か国の内政に影響を及ぼそうとしていた。マダガスカル、中央アフリカ共和国、モザンビーク、コンゴ民主共和国、コートジボワール、カメルーン、スーダン、そしてリビア。

現在、とりわけクレムリンの標的となっているのは、数年にわたってフランスがイスラーム過激派に対して作戦を展開してきた――そして満足すべき成果をあげていない――諸国である。ここ数か月間にエマニュエル・マクロンは軍隊を撤退させつつあり、フランス人のいた場所をロシア人が占拠しつつある。

削除されたアカウントに代わって、新しいアカウントが次々に作られている。今週、デジタル・フォレンジック・ラボ(DFL)が、マリの偽情報についての報告書を公表した。マリへのロシアの介入を推し進め、西側、とりわけフランスの信用を貶める5つのウェブサイトのネットワークが発見された。2021年9月に、これらのサイトは、ワグネル軍団を、フランス軍に代わる軍事勢力として紹介し始めたという。

14万人のユーザーが登録するこれらのサイトには、約24,000件の記事が投稿されている。しかし、その内容はしばしば同一であった。

ウクライナ?「あれはゼレンシキーが悪い」

別の報告書では、ブルキナファソで、親ロシア的な内容の記事が、1月に起こったクーデター(*)の数か月前から流布はじめたことを研究者たちが指摘している。クーデターの直後、首都ワガドゥグーでは、暴動の参加者たちは、親ロシア的・反フランス的なスローガンを叫んでいた。

*参考:「ブルキナファソで軍がクーデター イスラム過激派抑え込めず不満募る」『朝日新聞』 2022年1月25日
 https://digital.asahi.com/articles/ASQ1T2H7MQ1TUHBI002.html

もしイスラーム過激派が彼の故郷を焼き討ちしなければ、ブルキナファソの玩具店主はロシアに関心をもたなかったかもしれない。サワドゴには、過激派を抑えるための手段をフランスが持っていないとは信じられない。

「問題は、フランスが過激派を抑えようとしていないことだ。フランス人は私たちの苦しみを利用しているのだ」と彼は言う。

サワドゴはテレビのチャンネルを「フランス24」に合わせた。画面に、爆撃されたウクライナの街の映像がうつしだされた。

「ぜんぶゼレンシキーのせいだ」と彼は言った。「人びとが死んでいくのはゼレンシキーが悪い。プーチンは悪くない。」

偽アカウントを設定しているのはロシアだけではない。2020年末、フェイスブックは、フランス軍と関係するページを削除している。そのページは、アフリカの数か国で親ロシア的なトロールに対抗するために作られたものだった。しかし、フランス側のトロールは効果を挙げているようにはみえない。地元の人たちはロシア側のキャンペーンに引き込まれており、そのことによって、ロシア側の流す情報は、さらにほんものらしく見えているのである。

黒海北岸から遠く離れたアフリカ諸国が、ロシアと西側の情報戦の舞台となっていることを伝える記事。背景として、イスラーム過激派のアフリカ社会への浸透、旧植民地宗主国であるフランスの影響力の縮小、そのあとに入り込んで影響力を拡大しようとするロシア、という三つ巴の構図が読みとれる。

今回の戦争では、サイバー空間が激しい戦いの場となっている。サイバー空間はグローバルに広がっているために、インターネットに接続できる人は、世界のどこに住んでいても、この戦いに巻き込まれる可能性がある。日本に暮らす私たちも例外ではない。

【SatK】