「ガゼタ・ヴィボルチャ」 2022年4月30日 執筆者:Mikołaj Marcysiak
https://wyborcza.pl/7,75400,28391122,rosjanie-zaminowali-ukrainskie-stonehenge-archeolodzy-bija.html
ウクライナの最も重要な考古学的遺跡の1つである「石の墳墓」(Кам’яна Могила)が、ロシア軍によって防衛強化地帯のなかに組み込まれた。他に類を見ない岩でつくられた芸術作品が、破壊の危機にさらされている。
文化的にも自然科学的にも比類ない価値をもつ有名な考古学遺跡「石の墳墓」は、まもなくウクライナ南東部の戦いの最前線の一部となる可能性がある。この遺跡は、とりわけペトログリフ(岩石線画)――砂岩でできた壁面に刻まれた線画――があることで知られている。
「石の墳墓」遺跡はザポリージャ州メリトポリ市の近くに位置しており、現在はロシア軍の支配下にある。ウクライナ側メディアが伝えた情報によると、ロシア軍はこの地点に陣地を築いており、周辺一帯には地雷が設置されている。
主要な道路と遺跡周辺の地帯に地雷が設置されたという情報は、ロシア側に協力しているメリトポリ市当局のユーリー・ラトコワから住民に伝えられた。
ザポリージャ州の〔ウクライナ軍〕軍政局長イワン・アフェフィエフ大佐は、メディアへのコメントで、「石の墳墓」周辺の文化保護対象地区でロシア軍が塹壕を掘っていることを認めた。「われわれ〔ウクライナ側〕の情報によれば、このような手段で占領軍は民間人の動きを制限しようとしているが、それはおそらく民間人がパルチザン活動を始めることを怖れているのだ。」
脅かされる文化遺産
しばしば「ウクライナのストーンヘンジ」とも呼ばれる考古学遺跡「石の墳墓」は、ステップ地帯の平原のうえに盛り上がった砂岩の岩山である。これは、第三紀(約6,500万年前から180万年前まで続いた地質学上の時代)にこの地域に存在したサルマチア海の砂岩の名残りである。
時間の経過とともに氷河や風雨にさらされて、岩山の表層の岩盤は不思議なかたちになっている。その多くに、かつて水中で生きていた植物や軟体動物の痕跡が残っている。
自然科学的にみて類例のない価値があるだけでなく、この場所は、ウクライナの重要な文化遺産でもある。考古学者たちはここに68の岩窟を発見した。
この石の墳墓には、87の墓石が存在する。そのうち65の壁面に、岩に刻まれたペトログリフ(岩石線画)が見つかっている。発掘の過程で、考古学者たちは約400点の遺物を記録しているが、それらの成立年代は、石器時代(紀元前8,300年から7,000年)から中世(10~12世紀)に及んでいる。
「「石の墳墓」遺跡は、まさしくそこに刻まれている比類のない岩石線画のために、最も価値の高い考古学的遺産です。疑いもなく、ウクライナ全土で最も重要な遺跡の1つでもあります。この遺跡の破壊は、学問的に巨大な損失となるでしょう」と、〔ポズナンの〕アダム・ミツキェヴィチ大学の考古学の教授マルチン・イグナチャクは指摘する。
この遺跡に残された芸術作品は、1,000年の時間をかけて、さまざまな文化の担い手たちが創りあげたものである。岩の迷路の片隅にみられるペトログリフや絵画は、旧石器時代の人びとや青銅器時代の狩人たち、さらに後の時代のステップの遊牧民――キンメリア人、スキタイ人、サルマチア人、フン族――が遺したものである。
遺跡の周囲に集落の痕跡がまったくみられないことから、考古学者たちは、ここが崇拝の場所であったと推測している。
「線画の一部には、赤い塗料の痕が残っていました。ペトログリフには、マンモスや雄牛、茂みのなかでの待ち伏せが描かれています。人や獣を犠牲に捧げる場面もあります。石の1つはマムシの頭を象っています。もっと大きな別の石は、祭壇のようなものとも解釈されています。これらの線画は魔術的な意味をもっていたのではないか、と多くの研究者は考えています」と、ポーランド科学アカデミー考古学・民俗学研究所のアルフレド・トファルドフスキ博士は説明する。
文化遺産の壊れやすさ
ユネスコ(国連教育科学文化機関)は、ウクライナでの戦争が始まってから、重要な文化的意義をもつ遺産・遺物のうち、傷つけられたり完全に破壊されたりしたものが100点を越えることをあきらかにしている。
「石の墳墓」の考古学遺跡は、2006年からユネスコ世界遺産の暫定リストに登録されており、審査の候補として名乗りをあげている。
野蛮な侵略の結果として、近年、世界中で多くの貴重な遺産が破壊されている。とりかえしのつかない損失となった例として、ほぼ完全に破壊された古代都市パルミラの遺跡や、タリバンによって破壊されたアフガニスタンのバーミヤンの巨大な石仏が知られている。
Fot. http://www.encyclopediaofukraine.com
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【SatK】