「ナチスめ、お前たちをぶち殺してやる」――ロシア兵がウクライナの医師に

「ガゼタ・ヴィボルチャ」 2022年4月12日 執筆者:Fabio Tonacci
『ラ・レップブリカ』紙よりの転載
https://wyborcza.pl/7,179012,28317023,nazisci-powybijamy-was-mowia-ranni-rosyjscy-zolnierze-do.html

ザポリージャの病院には、南方の前線からひっきりなしに負傷した兵士たちが送られてくる。負傷者を識別するために、看護師たちはマジックペンで患者の身体に彼の名前を書き込む。そのなかにはロシア兵もいる。

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あなたを殺すためにあなたの家に侵入してきた患者を手術することになっても、外科医はいささかも動じることなく、確かな腕をもってのぞまなければならない。その患者が、病院のベッドで狂ったように「お前らを殺してやる」「お前らは全員ナチスだ」「お前らの子どもも女どもも死んで当然だ」と繰り返していても、耐えなければならない。

戦争のこのような場面ではヒポクラテスが勝者であり、医師は医師であり続ける。前線のどちらの側で銃を撃つ者であるかにかかわりなく、医者はすべての患者を救うと誓いをたてている。

「このロシア人たちは慈悲とはなにかということを知らない」

ザポリージャの野戦病院では、ウクライナ兵だけでなく、ロシア軍の兵士たちも治療を受けている。2月24日から今日まで、ドニプロ川右岸のこの診療施設まで700名を越える負傷者が送られてきた。一度に20人を越える患者がやって来たときには、看護師たちは黒いマジックペンを用意して、混乱してまちがいが起こらないように、患者たちの額に名前を書き込んだ。

戦争は続いているが、彼らはなんとか工夫しながら対応して、ウクライナ人もロシア人も受け入れている(患者の約10%がロシア兵である)。今日運ばれてきたのは、南方のマリウポリ、ザポリージャの農村部、ヘルソン、ミコライウで戦っていた兵士たちだ。手榴弾、重火器、ライフル銃、その他殺傷能力のある武器によって負傷している。

ヴィクトル・ピサンコ中佐(38歳)は、携帯電話に保存されている裂けた体、切断された腕、炭化した手足の写真をひと通り眺めてから、こうコメントした。「こういう状態でここに運ばれてくる。ひどいものだ。」ピサンコは外傷学(traumatlogy)の専門医で、この病院の院長でもある。コソヴォやコンゴに派遣されたこともあり、恐ろしい場面をすでに幾度も間近で目にしてきた。そんな彼でも、縫合して包帯をしたばかりの若いロシア軍の兵士が病床で狂信的に繰り返す言葉には、身震いせずにはいられない

「彼らは良心の呵責を感じていないし、慈悲とは何かを知らないのです。理由もわからないままにモスクワが自分をウクライナ戦線に送り込んだことに居心地の悪い思いをし、後悔の気持ちをあらわしたのは、40歳の将校ただ1人でした。残りの兵士たちは、ウクライナへの見方については、かたくなで無慈悲なままです。」

プーチンの軍隊からの負傷者は全員、「ロシア人の部屋」と呼ばれる警護された場所に入れられている。窓に鉄格子ははまっていないが、警備兵が監視している。

「私たちは彼らを看護し、救命します。その後は、国防省と諜報部が彼らを引き受けるのです」とピサンコは語った。

すでに彼らは戦時捕虜の身分にある。しかし、戦場から集められて病院に入っているあいだ、まだ取り調べを受けたり刑務所に入ったりする前の段階では、彼らは感情的に完全に率直な状態にある(通常は、じきに彼らは率直さを失ってしまう)。この局面では、彼らはほんとうに考えていることを口にする。そして、彼らの考えていることは、恐ろしい。

「ナチスを殺すためにわれわれは来たのだ、子どもも同じだ」

18歳のロシア兵リパトフは、フライポレ付近から担架で運ばれてきた。彼は徴集兵で、足に重傷を負っていた。手術後の回復期に彼の世話をしたのは志願看護師のオクサナ・コルチンスカだった。志願する前は、彼女は映画会社の経営者だった。彼女はこう語る。
「彼が戦っていた場所では、逃げようとした女性と子ども数人が射殺されました。そのことを言うと、彼は「それが何だ? 何か問題あるか?」と答えるのです。私は、なぜ非武装の民間人を撃つのか説明してほしい、とこの若者に言いました。彼はこう答えました。「子どもだってナチスだ。俺たちがここに来たのは、お前たちが悪者で、お前たち全員を根こそぎにしなけりゃならないからだ。」私はそこで引き下がらずに、では、彼の考えではナチズムとは何であり、ナチスの特徴とは何か、説明してほしい、と言いました。彼は黙ってしまいました。私たちの医師が彼の足を治療しましたが、彼はゾンビのように恐ろしいうわ言を繰り返すのです。私は、彼が麻薬でも飲んでいるのかと思いました。自分の耳に聞えてくることが信じられなかったのです。」

しかし、血液検査をしても麻薬を摂取している形跡はなく、アルコールも検出されなかった。

ピサンコ中佐は、ロシア東部出身の22歳の兵士と話をした。この兵士は、ウクライナには敵のアメリカがいる、と考えていた。

「彼は私にこう説明するのです。上官が彼らに示した目的は「アメリカをやっつけること」だ、と。私はうんざりしてこうたずねました。「それで、君はウクライナでアメリカ兵を見たかね?」しかし彼はこう言うのです。「アメリカをやっつけるために俺はここにいる。」その後、彼はこうたずねたのです。「わからないな。なんでお前たちは俺のいのちを助けたんだ?」

ザポリージャの野戦病院の外科医と麻酔科医の多くは、この戦争で家族や友人を失っている。
「ロシア兵を治療することについて、私たちの誰ひとりとして疑いをもつことはありませんでした。しかし、もし躊躇する者がいたとしても、私はその気持ちを理解するでしょう」――こうピサンコ中佐は言った。

ポーランド語への翻訳:Bartosz Hlebowicz

【SatK】