ロシア、反戦的な発言をした教師を生徒たちが密告

「ジェチポスポリタ」 2022年4月11日
https://www.rp.pl/konflikty-zbrojne/art36050911-nauczycielka-z-rosji-uczniowie-doniesli-na-mnie-za-antywojenne-komentarze

ロシア西部のスポーツ・エリート校で英語を担当する45歳の教師イリーナ・ゲンIrina Gen
は、3月末に学校内で反戦的コメントを行なった容疑で取り調べを受けた。生徒たちが彼女の発言をひそかに録音し、捜査当局に渡していた。

3月31日にテレグラムに公表された録音では、生徒が教師に、どうしてロシアはスポーツの国際大会から排除されているのか、と質問している。

「ロシアが文明的なやり方で振る舞うようにならないかぎり、永遠にこの状態が続くでしょう」と教師は答え、次のように続けた。「彼らはウクライナ西部を爆撃し始めました…キエフを占領してゼレンシキーと〔ウクライナの〕政権を倒したいのです。でも〔ウクライナは〕主権国家なのです。主権をもった政府なのです。」

「でも私たちは詳しいことを知りません」と生徒の1人が言った。

「そのとおりですね。あなたたちは何も知らないでしょう。じっさい、何も知らないのです」と教師は答えた。「私たちの国は全体主義的な体制です。どんなことでも反対すれば犯罪として扱われます。私たち全員が15年間投獄されるのです。」

授業での会話は3月18日に録音されたものだ、とゲンは認めた。彼女の考えでは、生徒の親たちが「発言を録音して、当局に渡すように子どもたちに言いきかせた」のだという。

ゲンによると、3月23日に連邦保安庁(FSB)の捜査官が学校にやってきた。ロシア軍がウクライナで民間人を標的に攻撃していることと、マリウポリが爆撃されていることについて生徒たちに話したことで「あなたは大きな過ちを犯した」と捜査官は指摘した。

「何者かが自分の教師を密告するということ、そもそもこの問題で誰についてであれ密告するということを、私は考えたこともありませんでした」と彼女はいう。4月1日付でゲンは解雇された。

現在、この45歳の教師に対して、ロシア軍の信用を貶める「虚偽情報」を拡散した件で審理が行なわれている。10年間の懲役と500万ルーブル(約6万ドル)の罰金を科される可能性がある。

上記の記事は、本タイムラインですでに紹介した記事の続報にあたる。
「君たちは失業することになる――服従しない芸術家と教員にロシア国家院議長が警告」
投稿日: 2022年4月3日
https://www.kyotounivfreedom.com/ukraine_timeline/article/20220403_1/

最初の記事を読んだときには、自分も教壇にたつことを仕事にする身として、背筋が凍る思いがした。ただ、そのときにはわからなかったことだが、密告の舞台となった学校が「スポーツ・エリート校」である点は、注意が必要かもしれない。ロシアの環境のもとでは、国際的に活躍できるスポーツ選手になるということは、国家を代表し、その威信を高める使命を担うことと不可分であろう。そのような使命感を、このような学校で学ぶ生徒たちも、彼らの親たちも、比較的強く内面化しているかもしれない。

こうした個別のケースから、どの程度まで現在のロシア社会全体の空気を推し量ることができるのか、確かなところは訳者にはわからない。しかし、この間にあきらかになってきた、ウクライナの占領地での多くのロシア軍兵士たちの非人道的な行動や、ロシア国内でのZ字の(肯定的な文脈での)使用の普及などと考え合わせると、学校で起こったこの密告事件は、かりに典型的な事例でないとしても、少なくとも徴候的な事例であるとは言えるのではないだろうか。

第二次世界大戦中のドイツでは、絶滅収容所でユダヤ人の大規模な殺戮が行なわれただけでなく、占領地で多くのユダヤ人が射殺されている(ホロコーストの犠牲者のうち、およそ20~25%は射殺によるものであった)。現場で「任務」として銃殺を実行したのは、動員された「普通の」ドイツ人男性たちである。無抵抗なユダヤ人たちに向かってひたすら銃の引き金を引き続けることが、どうして「普通の人びと」である彼らに可能になったのか、という問いに答えようとしたのが、クリストファー・R・ブラウニングの『普通の人びと――ホロコーストと第101警察予備大隊』(谷喬夫訳、ちくま学芸文庫、2019年)であった。ブラウニングは、隊員たちが最初から「抹殺主義的反ユダヤ主義者」であったわけではなく、いくつかの条件のもとで殺戮に対して徐々に無感覚になってゆき、大量殺戮の専門家に変身していった過程をあきらかにしている。このブラウニングの研究も含めて、ホロコーストの研究者のあいだでは、ヒトラーの政治的指導力とドイツ社会を構成する「普通の人びと」との関係をめぐって、さまざまな角度から議論が行なわれてきた。

現在進行中のウクライナでの戦争についても、プーチンの政治的指導力とロシア社会の「普通の人びと」との関係について、単純化に陥らない考察と議論が必要とされている。

【SatK】