ウクライナの激戦地から逃れた大学教員 ネクタイを着け続ける理由

『朝日新聞』 リビウ=金成隆一2022年4月4日
https://www.asahi.com/articles/ASQ4276J8Q30UHBI004.html

(以下、記事からの引用です)
ロシア軍の侵攻により、ウクライナ各地から避難民が押し寄せている西部の街リビウ。退避してきた人々が暮らすシェルター施設で、ネクタイをしている男性を見かけた。着の身着のままで脱出してきた人が多い中では珍しかった。

男性は、ロシア国境に近く、激しい攻撃を受けたウクライナ北東部スムイ出身の大学教員バリリ・パナシュクさん(62)。侵攻直後に友人宅の地下に逃れた。
(…)

チェルニウツィでは、好みの柄のネクタイを探しながら街を歩いた。大学教員として、いつも身につけていたものだが、慌てて退避したため手元になかった。

街中を歩き回って、質屋で中古品のネクタイ2本をやっと買うことができた。

なぜ、ネクタイを?

記者が問うと、しばらく考えてこう答えた。

「レジスタンス(抵抗)です。私の生き方、スタイルは、ロシア軍の侵攻で妨害されることはない。そんなことを私は認めませんから」

そして、こう続けた。

「戦時下は必要不可欠なもの以外はあきらめるべきだ、と言われがちです。第2次世界大戦でも似たようなことが言われたそうですし、今も多くの人がそうしている。装いを気にしなくなる。文化も同じで、必要最低限が満たされて初めて追加するものと見られやすい。でも、それらを捨ててしまうと、人間が生きる上で大切なものを失うことになる。ロシアはウクライナの文化面にも攻撃を加えているので、抵抗する必要があるのです」

ひとりひとりの生き方やスタイルを否定し破壊するのが戦争であるとすれば、戦時下に自分の生き方やスタイルを貫くことは、戦争への根底的な抵抗となるだろう。私自身はふだんネクタイをしないが、この方のネクタイには最大限の敬意を払いたい。

【SatK】