イェンジェイ・ビェレツキ「ドナルド・トランプを訪問したウォロディミル・ゼレンスキー、あるいはウラジミール・プーチンの大勝利」

2025年2月28日付 『ジェチポスポリタ』
https://www.rp.pl/komentarze/art41865021-jedrzej-bielecki-wolodymyr-zelenski-u-donalda-trumpa-czyli-wielki-tryumf-wladimira-putina

クレムリンは祝杯を挙げている。ロシアは長年の努力の末、ウクライナとその最大の同盟国である米国との同盟関係を断ち切ることに成功した。

金曜日の大統領執務室におけるドナルド・トランプ、ウォロディミル・ゼレンスキー、J.D.ヴァンスの記者会見を見ながら、その場に集まった人たちの頭上に、もうひとりの人物の霊が漂っているような印象を受けた人もいるかもしれない。その人物とは、ウラジミール・プーチン大統領だ。しかも、その霊が、アメリカ大統領の口をとおして語るのだ。

「お前は第三次世界大戦を弄んでいる」と、トランプはウクライナの指導者に叫んだ。
「お前には強いカードがない。われわれなしでは、お前には何もない。…合意に同意するか、さもなければ負けるかだ」とトランプは怒りの表情で続けた。

以前からプーチン大統領は、ウクライナでの戦争が原因となって第三次世界大戦が勃発しかねない、と脅してきた。それをトランプが今、繰り返している。
これは、プーチンのよく知られた主張である。ウクライナの西側の同盟国を抑止するために、彼は、核戦争の脅威を繰り返し利用してきた。戦争のなりゆきにかんする真実を、彼は隠してきた。戦場で死亡したり重傷を負ったりした兵士が100万人近くにのぼり、ロシア軍の前進が遅々としたペースであることを。そして彼は、これは、自由と独立のために戦うウクライナがロシアと対決しているのではなく、モスクワとNATO全体の衝突であると主張してきた。

ニューヨーク・タイムズ紙は、アメリカの歴史上、アメリカの大統領が、外国の、しかも同盟国の大統領を、このように扱ったことはかつてなかったと指摘する。米メディアによると、ゼレンスキーはその後、米大統領府から退去するよう求められた。さらにトランプ大統領は声明を発表して、アメリカ国民は侮辱されたのだ、と表明した。

これは、何十年も自由世界のリーダーであったアメリカが、トランプ政権下でどうなったかを示している。彼らが侮辱されたと考えるその理由は、自らの自由を守るために必死に戦っている国が降伏しようとしないから、というものなのだ。ゼレンスキーは、王を裸にした。彼は、トランプが本当はどんな人物であるかを示したのだ。

ドナルド・トランプはウクライナに実質的に降伏を提案している

現在、ウクライナの唯一の希望は、戦っている自国の軍にある。しかしまた、ヨーロッパもウクライナにとっての希望なのだ。そのヨーロッパは、日曜日にロンドンで開催される首脳会談で、ウクライナを支援する計画を発表する予定である。しかし、これは平和を意味するのではなく、さらなる戦争を意味する。なぜなら、ゼレンスキー自身がホワイトハウスで述べたように、停戦を呼びかけるヨーロッパの活動は、アメリカの支援なしには不可能だからだ。ヨーロッパ諸国は、自らの力でウクライナに対して安全を保障することはできない。ポーランド外相ラドスワフ・シコルスキによれば、キーウは、少なくとも今年末までは、このような状況に耐えることができるであろう。その先がどうなるかは、わからない。

そもそも、ゼレンスキーに選択肢はあったのだろうか? 数々のスキャンダラスな発言、とりわけJ.D.ヴァンス副大統領の発言に挑発されて、彼は感情的になってしまった。しかし、ゼレンスキーは最初から、自分の選んだ方針を維持してきた。それは、キーウはアメリカによる安全保障なしには停戦に同意することができない、というものだ。なぜならば、安全が保障されない停戦は、プーチンに軍隊を再編して再び攻撃するための時間を与えるだけになるからだ。もしアメリカがそれを容認すれば、ワシントンとモスクワの合意の枠にそって、ウクライナを戦闘なしで征服できるようになるだろう。ゼレンスキーは、トランプの提案する平和よりも戦争のほうがよいと考えたが、それは理由のないことではない。トランプの提案とはつまり、降伏する、ということに他ならないのである。

【SatK】

バルトシュ・T・ヴィェリンスキ「仮面は剝がれた。自分がどちらの側についているか、トランプは示した」

『ガゼタ・ヴィボルチャ』 2025年2月28日付
https://wyborcza.pl/7,75399,31732548,maski-opadly-trump-pokazal-po-czyjej-stronie-stoi.html#S.MT-K.C-B.1-L.1.duzy

そしてあらためて、ウクライナは不屈であることを証明した。
「トランプにとっての最大の問題は、ウクライナが降伏しないことだ」―これは数日前、欧州の有力な外交官から聞いた言葉だ。まさに的を射た発言だ。もしゼレンスキーが、大統領執務室で、額を床に擦りつけて感謝しろと求めるドナルド・トランプ大統領とJ. D. ヴァンス副大統領に屈服していれば、最後に背中をたたいてもらい、記念写真を撮ることができたであろう。トランプとそのとり巻きは、大勢の支持者に向かって、アメリカはこんなふうに尊重されなければならないのだ、と宣言することもできたであろう。そのうえで、彼らはおもむろにロシアとの交渉を始める。そうなれば、背骨を折られたゼレンスキーは、ひと言も口をはさむことはできないだろう。

アメリカの大統領と副大統領が客人に対して公然とがさつな振る舞いにでることは、近現代の外交史上、例のないことである。いや、待て、同じようなことが、かつてなかっただろうか?

「プーチン大統領からすでに聞いた」

1939年3月14日、悪名高いミュンヘン会談から4か月も経たないうちに、チェコスロバキアの大統領エミール・ハーハがベルリンに呼び出された。総統官邸での真夜中の会見の場で、ヒトラー、ゲーリング、リッベントロップは、もしドイツに祖国を明け渡さなければ、ドイツ軍が侵攻し、プラハを爆撃し、ありとあらゆる災厄が降りかかるだろう、と彼を脅した。病気の老人で、何の支援も受けられなかったハーハは、結局、用意された書類に署名した…

ゼレンスキーは、戦うことを決意した。兵士がいないじゃないか、とヴァンスが言った。
「現地に来て、見てください」と彼は答えた。
停戦が必要だ、とトランプが言った。
「プーチンは、25回も停戦の約束を破っているのです」と、ゼレンスキーは、子どもに対するように説明した。
トランプ大統領は外交に重点を置いているのだ、ヴァンスが口を挟むと、ゼレンスキーは、ロシアとの外交は失敗していると答えた。ついに怒りだした米国大統領は、数日前の議論、つまりウクライナの指導者にはカードがないという議論を持ち出した。
「お前は、何百万人もの人びとの命を弄んでいる。お前は、第三次世界大戦の危険を弄んでいるのだ。お前のやることは、わが国に対する敬意を欠いている」と彼は言った。
「そういったことは、プーチン大統領からすでに聞いたことだ」と、ゼレンスキーは気丈に返した。

ハーハも、ヒトラーから同じことを聞いただろうと、私は思う。

仮面は剥がれた

トランプ大統領、ヴァンスとゼレンスキーの口論は世界中に放送された。その後―非公開なので内容はわからないが―さらに激しい延長戦があった。何も解決しなかった。ゼレンスキーは、ホワイトハウスから退去するよう求められた。彼がレアアースの共同採掘にかんする協定に署名しなかったことは、あらゆることから明らかだ。

トランプ大統領は、そもそもウクライナの大統領と衝突してもよいと考えたことで、敗北したのだ。彼は、約束に反して、平和をもたらすことができないことを示した。1か月後であれ、半年後であれ、そもそもできない、ということだ。

調停者は公平かつ公正でなければならない。大統領執務室でのトランプとヴァンスは、政治家としてではなく、詐欺師のように振る舞った。彼らの関心は、もっぱらウクライナの資源を収奪することだけにあった。これはロシアのウクライナに対するアプローチと―実現の仕方ではなく、そもそも何を考えているのか、という観点からみて―何が違うのであろうか? ホワイトハウスの住人がだれの側についているのかは、明らかだ。仮面は剥がれ落ち、幻想は消えた。

ウクライナいまだ滅びず

ゼレンスキ―は、3年前、ロシア軍が迫るキーウにとどまることで、文明世界の英雄となった。時がたつにつれて、彼の輝きは失われていった。アメリカ人の詐欺に抵抗することで、再び彼は英雄となった。

トランプが選挙に勝利して、ホワイトハウスに近いポピュリストたちが、グローバル政治で追い風をとらえて優位に立つように思われた。しかし、じっさいにはその逆であることが明らかになりつつある。カナダでは、ジャスティン・トルドー首相の自由党が勢力を伸ばしている。ドイツでは、イーロン・マスクの支持は、極右のAfDを羽ばたかせるには至っていない。ウクライナでは、社会が自国の大統領のために団結している。

しかも、そもそもウクライナは、トランプとヴァンスが示唆したように戦争に負けたわけではない。ウクライナには、武器、兵士、資金がある。ロシアは、前線で突破口を開くことができていない。ウクライナは、ヨーロッパとその同盟国からも支持を得ている。

日曜日には、EU首脳16名(もちろんドナルド・トゥスク〔ポーランド首相〕も含まれる)、EUの諸機関の長、NATO事務総長が、ロンドンで会合を開く。議長のキール・スターマー英首相は、ワシントンへの(かなり成功したと言ってよい)訪問について報告する予定だったが、トランプ大統領とゼレンスキーのあいだで何が起こったかについても議論でとり上げられることは明らかだ。われわれは、アメリカが落としたバトンを引き継ぎ、ウクライナの安全と平和の確保に積極的に関与する必要がある。われわれは―共同体として見れば―ロシアよりも何倍も豊かであり、強力である。われわれには、それ以外の選択肢はない。

【SatK】