「モスクワ、支払い用カード「ミール」で若者が戦争に抗議。ロシア語で「ミール」は「平和」を意味する」

「ジェチポスポリタ」 2022年3月30日付
https://www.rp.pl/konflikty-zbrojne/art35971641-moskwa-protestowal-przed-bankiem-z-karta-platnicza-mir
ウクライナ戦争をめぐる言論の統制が強まっているロシアで、若者たちが、さまざまに工夫を凝らして反戦の意志を示していることを伝えている。

  • 支払い用カード「ミール」を手にもって銀行の入り口の前に立つ。経済制裁でVisaや Mastercard が使えなくなったため、ロシア国内の支払い用カード「ミール」がブームになっている状況を逆手にとったプロテスト。”The Moscow Times”によれば、モスクワの警察はこの青年を拘束し、「予防的対話」の後に釈放した。
  • 「ファシズムは終わっていない」と書いた横断幕を掲げる。このモスクワの女性は、罰金50,000ルーブル(565ドル)を科せられた。
  • 教会の前で「第6の戒め――汝、殺すなかれ」と書いた紙を掲げる。モスクワ郊外の教会でこのやり方を試みた女性が拘束された。
  • 巨大なタバコのパッケージを作って「「特別軍事作戦」は人を殺します」という警告文を書き込む。このインスタレーションを制作したエカテリンブルクの男性は、罰金45,000ルーブル(513 ドル)を科せられた。

【SatK】

「ロシアは。ウクライナを。爆撃している。」

ウクライナ戦争が終わるまで活動停止を決めたロシアの独立系新聞『ノーヴァヤ・ガゼータ』の最終号の表紙。

【SatK】

ベルリン・フィルの「自由と平和のためのコンサート」をめぐる議論

「ベルリンの連帯コンサートは「侮辱だ」――駐ドイツ・ウクライナ大使アンドリー・メルニクは、シュタインマイヤー大統領の連帯コンサートへの招待に応じることを拒否した。このコンサートにはロシアの音楽家たちも参加していた。」
https://www.rp.pl/polityka/art35957801-ambasador-ukrainy-o-koncercie-solidarnosciowym-w-berlinie-afront

ドイツのシュタインマイヤー大統領の主催で、3月27日にベルビュー宮殿(ベルリン)でベルリン・フィルとロシアのピアニストのエフゲニー・キーシンによって、ウクライナとの連帯を表明するコンサートが行なわれた。
このコンサートの趣旨について、ベルリン・フィルのサイトでは「自由と自決の価値を共有する信念のもと、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、ドイツ、日本などの音楽家が、ウクライナ、ロシア、ポーランドの作曲家の作品を演奏します」と説明されている。
プログラムでは、ウクライナの現代作曲家ヴァレンティン・シルヴェストロフの作品が最初と最後におかれ、さらにショパン、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチの作品が演奏された。
演奏者は、キーシンとベルリン・フィルのメンバー以外に、ロシアのバリトン歌手ロディオン・ポゴソフ、ベラルーシ出身のチェリスト、ウラジーミル・シンケヴィッチが参加した。ベルリン・フィルの首席指揮者でロシア出身のキリル・ペトレンコが指揮する予定だったが、急病のため沖澤のどかが当日のタクトをとった。
https://www.digitalconcerthall.com/ja/concert/54336
(3月29日現在、コンサートの映像は編集中で「近日中にアップされます」とのこと。)

駐ドイツ・ウクライナ大使は、「ロシアの(!)ソリストばかりだ。(…)ウクライナ人はひとりもいない!(…)侮辱だ」とtweetし、コンサートを欠席した。


ドイツ大統領府報道官のツェルシュティン・ガムメリンは、ウクライナ大使の欠席についてTwitterで、ウクライナからベルリンに避難している音楽家もコンサートに参加していたことを指摘したうえで、次のように述べた。「このコンサートは、ウクライナのために共通の合図、その出身地にかかわらず平和を支持し戦争に反対するすべての人びとの合図を送る機会でした。私たちがともにこの合図を送ることができないことは残念です。」


これに対してウクライナ大使は、次のようにtweetを返した。
「やれやれ、どうしてドイツ連邦大統領にはそんなに認識することがむずかしいのか。ロシアの爆弾が夜も昼も都市に降り続け、何千もの市民が殺されているときに、われわれウクライナ人は「偉大なロシアの文化」を味わう気分にはなれないということを。以上。」

このコンサートの最初と最後に作品が演奏されたウクライナの作曲家ヴァレンティン・シルヴェストロフはキーウ出身で、戦争を逃れてベルリンに避難しており、この日も最前列に座って演奏を聴いていた。その点では、大統領報道官の指摘するとおり、このコンサートはウクライナの音楽界に敬意を表する構成になっていた。

たしかに、このコンサートでは、ソリストとしてロシアのピアニストと歌手、ベラルーシのチェリストが演奏し、曲目にロシア・ソ連の作曲家チャイコフスキーとショスタコーヴィチの作品が含まれていた。
しかし、駐独ウクライナ大使のtweet(とくに最初のもの)は、ロシアやベラルーシの音楽家がいま、ベルリンで、戦争に反対するコンサートに参加することの意味を十分に汲みとっていないように感じる。
ピアニストのエフゲニー・キーシンは、ロシア軍のウクライナ侵攻の3日後に、戦争に反対するメッセージをインスタグラムで公表している。


指揮をとる予定だったキリル・ペトレンコも、「プーチンの悪辣なウクライナへの攻撃」を非難する声明をベルリン・フィルの公式サイトで発表していた。
https://www.berliner-philharmoniker.de/en/news/detail/statement-on-russian-invasion-of-ukraine/
2人とも、祖国ロシアで演奏できなくなることを覚悟しながら、これらのメッセージを公表したはずである。

以上のことをすべて認識したうえで、駐独ウクライナ大使の2度目のtweetの「ロシアの爆弾が夜も昼も都市に降り続け、何千もの市民が殺されているときに、われわれウクライナ人は「偉大なロシアの文化」を味わう気分にはなれない」という言葉には、たんなる言い訳ではない(たぶん本人にもどうしようもない)感情が表れているとも思う。人と人のあいだを分断し、越えられない溝を生みだす戦争は、ほんとうに罪深い。

【SatK】

フィンランド、ヘルシンキ、サンクトペテルブルクから到着した最後の列車

https://www.afpbb.com/articles/-/3397337?cx_part=common_focus

【3月28日AFP】27日午後7時すぎ、フィンランドの首都ヘルシンキの鉄道駅にロシア・サンクトペテルブルク発の高速列車「アレグロ(Allegro)」が到着した。アレグロの運行は28日以降、停止されるため、ロシアと欧州連合(EU)を直接結ぶ最後の列車となった。

ロシアがウクライナに侵攻して以降、西側の制裁で移動手段が断たれる前に出国しようとするロシア人がアレグロに殺到。乗車券は常に完売状態で、乗客数は1日当たり約700人に上っていた。

これでロシアとEUのあいだを直接結ぶ空路と鉄路がなくなったことになる。

【SatK】

ウクライナの調査機関「レイティング」が、ウクライナにおける言語をめぐる意識調査の結果を発表

ウクライナの調査機関「レイティング」が、ウクライナにおける言語をめぐる意識調査の結果を発表した。
過去10年間に、ウクライナ語を母語とみなす人の比率が増加し、ロシア語を母語とみなす人の比率が減少している。
https://ratinggroup.ua/en/research/ukraine/language_issue_in_ukraine_march_19th_2022.html
ウクライナ語を母語とみなす人の比率
2012年 57%
2022年 76%

ロシア語を母語とみなす人の比率
2012年 42%
2022年 20%

  • 母語についての意識の顕著な変化は、2012年から2016年のあいだに生じている。3つの理由が挙げられている。
    a) 政府の言語政策へのウクライナ社会の対応
    b) デジタル革命にともなう影響
    c) 2014年のロシアによるクリミアと東部2州の占領がもたらした影響
  • 地域的には、ウクライナ中部・南部・東部で、ウクライナ語への意識の高まりがみられる。
  • 日常生活における言語の使用についても、ロシア語を使用する人の比率が下がっている(2012年:約40% → 2021年末:26% → 戦争勃発時:18%)。
    日常生活でウクライナ語とロシア語を併用する人の2/3が、今後はウクライナ語だけを使うことになってもよいと考えている。
  • 83%の人が、ウクライナ語だけを公用語とすることを支持している。ロシア語を公用語とすることについては、戦争が始まる前は1/4の人が支持していたが、戦争開始後は7%に減少した。
  • 67%の人が、ウクライナ語を話す市民とロシア語を話す市民のあいだに問題は生じていないと答えている。

ウクライナでは、もともと生活のなかでロシア語が使われる領域が大きく、ロシア語とウクライナ語の両方を話せる人も多かった。しかし、2014年のクリミア併合と東部2州への介入以降、ロシアの政治的・軍事的圧力に対するウクライナ社会の反発が高まり、ロシア語を忌避する傾向が強まっていったと考えられる。もともとロシア語の比重の高かった中部・南部・東部でウクライナ語を母語とみなす人の比率が上昇していることは、この調査結果で注目すべき点の1つである。今回の戦争によって、ウクライナ社会の「非ロシア語化」と「ウクライナ語化」はさらに進むであろう。

【SatK】

ロシアの独立系新聞『ノーヴァヤ・ガゼータ』が、ウクライナでの戦争が終わるまで活動を停止すると発表

ロシアの独立系新聞『ノーヴァヤ・ガゼータ』が、ウクライナでの戦争が終わるまで活動を停止すると発表した。
ロシア連邦コミュニケーション・情報技術・マスメディア監視局(Roskomnadzor)より2度にわたり警告を受けたことから、新聞の発行はできないと判断した。
『ノーヴァヤ・ガゼータ』の編集長ドミトリー・ムラトフは昨年度のノーベル平和賞を受賞している。
https://www.rp.pl/polityka/art35958631-rosja-nowaja-gazieta-nie-bedzie-sie-ukazywac-do-konca-wojny-na-ukrainie

【SatK】

キーウのパン屋さん、本日も焼きたて提供中です

キーウのベーカリー「よい人たちが焼いたおいしいパン」では、知的障害をもつ人たちが毎日パンやケーキを焼き、キーウを防衛する兵士たち、警察官、病院の患者とスタッフ、街に残る市民たちに無料で提供しています。

ホームページ(英語)から支援ができます。
https://eng.goodbread.com.ua/

【SatK】

デジタル歴史ミュージアム Meta History – Muzeum of War

ウクライナ政府がデジタル歴史ミュージアム Meta History – Muzeum of War を立ち上げた。

ウクライナ戦争の「実際の出来事の記憶を保存し、世界のデジタル・コミュニティーに真実の情報を広め、ウクライナを支援する寄付を集める」ことを目的としている。
https://metahistory.gallery/

ウクライナ側の視点から、2月24日以降の戦争の経過が、ヴィジュアルなイメージとともに、時系列に沿って展示されている。
https://metahistory.gallery/warline

現在進行中の戦争がこれから「記憶の場」となっていくことを見越して、その当事国が、出来事の記憶を選択し、意味づけ、解釈を方向づける文脈を構築していく装置をサイバー空間にセットしたことになる。記憶研究(memory studies)の応用科学化・実用化である。人文学がこのようなかたちで「役に立つ学問」となることには、複雑な思いを抱かざるをえない。

【SatK】

ポーランド、ワルシャワ、「ベラルーシの自由の日」

ベラルーシ人、ウクライナ人、ポーランド人による連帯のデモンストレーション。

「自由の日」は、ルカシェンコ政権に反対する国内の民主派と、世界各地のベラルーシ系移民にとっての祝日(ベラルーシ政府は承認していない)。1918年3月25日のベラルーシ人民共和国の建国を記念して祝われる。

【SatK】

「ルカシェンコはロシアの協力者です」―ベラルーシ反体制派の指導者スヴャトラーナ・ツィハノウスカヤ(スヴェトラーナ・チハノフスカヤ)へのインタビュー

「ジェチポスポリタ」 2022年3月24日付
https://www.rp.pl/polityka/art35939431-cichanouska-bialorus-jest-juz-czesciowo-okupowana-przez-rosjan

数日来、アレクサンデル・ルカシェンコが自分の軍隊をウクライナに派遣するのではないかという情報がしきりに流れています。彼はこのようなことをやるとお考えですか?

一方で、それはルカシェンコにとって得ではない、ということを私たちは理解しています。そんなことをすれば、彼は侵略者となり、私たちの国をどん底に引きずり込むことになるだろうからです。彼がこれまでやってきたこと自体が、すでに拭い去ることのできないものです。しかし、自国の軍隊を送れば、彼のおかれている状況をむずかしくするばかりです。クレムリンは、自分が孤立しないためにルカシェンコに軍を送れと要求しているのだと推測できます。しかし、わが国の軍隊はウクライナに派遣されていません。軍の内部に大きな抵抗があるためだと私は思います。指揮官たちは、兵士たちをウクライナに送れば死地に赴かせるようなものだと理解しているのだと思います。加えて、ベラルーシ軍は規模の大きな軍隊ではなく、戦争する準備ができておらず、状況を特別に変えるものでもありません。しかし、クレムリンは、ルカシェンコの体制を血で汚しておきたいのです。ベラルーシでは、強力なプロパガンダによって、ウクライナにはナチス主義者がいると人びとに吹き込もうとしています。しかし、ベラルーシの兵士たちはすべてをわかっていて、ウクライナ人は私たちの兄弟であると認識していると私は信じています。兄弟とどうして戦争ができるでしょうか?

ルカシェンコに忠実な治安機関の職員たちは、ためらうことなく2020年の抗議活動を鎮圧し、拷問し、自国民に発砲することさえしました。

武器を持たない人びとを殴りつけるのに、たいした勇気は必要ありません。しかし、よく準備されたウクライナ軍と対抗できますか? ましてや、ベラルーシ軍よりもチェチェンやシリアの武力紛争に参加した経験豊富なロシア軍に起こったことを見たあとですからね。ロシアは高位の指揮官さえ失っています。

それでもベラルーシの独裁者がもしそのような決定を下せば… それはベラルーシにとって何を意味することになるでしょうか。

まちがいなく経済制裁が強化されることになるでしょう。新たな、はるかに痛みをともなう制裁が導入されるでしょう。加えて、ロシアから撤退した外国企業が、ベラルーシではまだ営業しているのです。これらの企業にとって、それは撤退の合図となり、レッド・ラインになることでしょう。しかし、それ以上にそれは、国外にいるベラルーシ人にとって、さらに大きな打撃となるでしょう。というのも、戦争が起こってから、私の同胞に対する差別が押し寄せてきたのです。ポーランドやウクライナの一般の人たちは2020年にベラルーシで起こったことについてはそれなりに聴いたことがあるでしょうが、その後の経過となると誰も追いかけていないのです。しかし、私たちは闘い続け、抑圧が続き、政治犯は獄中にあります。加えて、私たちは、ウクライナの人たちがルカシェンコにどのように関わっていたかを覚えています。彼はウクライナでかなりの支持を受けていたのです(キーウの調査機関KMISが2021年2月に行なった調査では、ウクライナ人のうち36%がルカシェンコを、26,7%がバイデンを、26,2%がマクロンを信頼していた――編集部注)。ところがいまでは、ウクライナ国境でベラルーシ人のパスポートが破り捨てられているという情報が流れています。そのようなケースがどれほどの規模で生じているのかはわかりませんが。チェコ人はベラルーシ人への査証の発行を停止したので、私たちが介入しなければなりませんでした。私たちは、ベラルーシ人が存在することを思い出させなければならないので、ウクライナのメディアにも絶えず登場するようにしています。

2020年のベラルーシにおける大統領選挙の後、あなたは、アメリカの大統領を含めて、おそらくすべての西側の指導者と会談しました。しかし、キーウには招かれませんでしたね?

招かれていません。私たちはウクライナの議員たちとはコンタクトをとっていますが、キーウの政権は私に対して慎重な態度をとってきました。それは理解できることです。彼らはベラルーシと商売上の強いつながりを持っていますから、キーウではおそらく、ルカシェンコと仲よくしておくほうがよいし、ロシア軍を引き寄せるべきではないと考えられていたのです。

ポーランドはウクライナにNATOの平和維持軍を派遣することを提案しました。あなたはこの提案についてどう考えますか?

どんな手段であれ戦争を抑止することには意味があると私は思います。飛行禁止区域の導入と平和維持活動については、もちろん私たちは支持しています。包囲されて、何週間ものあいだ人びとが食料も電気も水もガスも奪われている都市から人道回廊によって避難する動きを、それが助けることになるからです。さらなる死を回避し、さらなる殺害を防ぐことが、それによって可能になるからです。モスクワは即座に、平和維持部隊の派遣はNATOとロシアの紛争に発展しうると釘を刺しましたけれども。

彼らはさらに核爆弾で世界を脅しています。怖れるべきでしょうか?

脅迫して怯えさせるのは独裁者たちの常套手段です。このやり口を私たちは知っています。これをどう扱うか、どの国もジレンマを抱えています。しかし、独裁者たちは予見できない存在でもあり、自分たちが沈んでいくときに他の人びともいっしょに引きずり込もうという前提から出発することもありえます。通常は専門家は何らかの合理的な見解をもとにして結論を導きだしますが、独裁者たちは合理性に反する決定をするのです。ですから、なにごとかを予測することは困難です。おそらく常にそういうものなのでしょう。しかし、私は、ロシアにはそういうことを止めることのできる人びとがいるという大きな希望をもっています。ロシアの侵略前に、プーチンはウクライナに侵攻するつもりだ、と世界が言い始めたとき、私たちは、ハッタリだろう、怖がらせているのだろう、と考えました。そんなことはまさかやらないだろうと考えていたのです。さらにお話しすれば、戦争が始まる数日前、私たちはアメリカの専門家たちと会談しました。彼らは口を揃えて、戦争になる、と言いました。私はそのときには、それはありえないことだ、と考えていました。

ベラルーシを支配しているのは、すでにルカシェンコではなく、プーチンだ、という見方が広まっています。これは正しいでしょうか?

ルカシェンコはロシア軍の移動をコントロールしておらず、どこから、だれに向けて撃っているのか関知していない、と私は考えています。他方で、彼は自国民を怯えさえ、抑圧を続けています。たとえ何らかの理由で彼が譲って国民と何らかの話し合いを始めたいと考えたとしても、どうやってロシア軍の兵士たちを追い出すのでしょうか? それは彼にはできない、と私は思います。

では、もし独裁者が交渉を提案した場合、たとえばヴェネズエラがノルウェーの仲介で反体制側と行なったようなやり方ですが、あなたは彼にチャンスを与えますか?

私たちは最初から話し合いに応じると言っています。そのような話し合いによってロシア軍が撤退し、政治犯が釈放され、弾圧が中止され、新たに選挙を行なうのであれば、です。そのときには私たちは体制側と話し合うでしょう。祖国を救わなければならないという条件のもとであれば、ベラルーシの社会は一致して話し合いを支持するだろうと考えています。私たちは、欧州安全保障協力機構(OSCE)を介して話し合い、私たちの条件を伝えようと試みてきましたが、なにも成果がありませんでした。ルカシェンコは、自分は全能なので譲歩はできない、と考えているのです。

元外交官で反体制派のパーヴェル・ラトゥシュコは、ベラルーシは暫定的に占領下におかれた国とみなされるべきだと世界に訴えています。実際にそうなのでしょうか?

私たちもそう言っています。部分的には、ベラルーシはすでにロシア軍に占領されています。たしかにまだロシア人が国を統治しているわけではありませんが。したがって、私たちは、国際社会が、私たちの国を事実上占領された国とみなして、ルカシェンコを完全に非合法化することを求めています。彼はすでに主権を保障する存在ではなく、現実とのつながりを失っています。世界はすでに、民主的な勢力を介してベラルーシ人と関係をもつべきなのです。たとえばベラルーシの在外公館の大使は、体制側ではなく、民主的勢力が任命するべきなのです。私は世界の指導者たちと会い、多くの国が私たちとコミュニケーションをとってきました。このこと自体がすでに承認のしるしなのです。しかし、いま必要なことは、それに各国が制度上のかたちを与えることです。なぜならば、現状では、彼らはルカシェンコを認めていないのに、彼ととり引きをする余地を残してしまっているからです。彼は自分のしっぽを追いかけてぐるぐる回っている猫のように、平和を守ると言いながら、自分の領土からウクライナに向かってミサイルを撃っています。ルカシェンコはつねに巧みに言を左右し、言い逃れようとします。こういうことを許してはなりません。いま、ルカシェンコはロシアの協力者となっています。ベラルーシの現状は、ヘルソン(ロシア軍に占領されたウクライナの都市――編集部注)の状況と比較できます。ヘルソンでは、人びとが通りに出て抗議すると、ロシア軍が彼らに発砲しています。

通常、いずれかの国が他国に占領されると、パルチザン戦争が起こります。そのようなシナリオあなたは想定していますか? すでに少なくとも500名のベラルーシ人がウクライナ側で戦っており、ベラルーシからの志願者の人数は増え続けています。カストゥーシュ・カリノーウスキ〔=19世紀のベラルーシ民族運動の指導者の1人。ロシア帝国とたたかうパルチザン集団を指揮し、逮捕されて処刑された――訳者注〕の名前を冠した大隊まで作られました。彼らはベラルーシの自由のためにも戦っているのだと語っています。

私が軍隊の指揮官として命令を発したり、防衛にとり組んだりする人間らしく見えないということは、自覚しています。しかし、そうすることが必要になれば、それをやります。いちばんよいのは、わが国の軍の組織なかに、軍にたいして権威をもつような軍人が現れることでしょう。ヴァレリー・サハシチク〔=ベラルーシ軍予備役陸軍中佐、ブレスト空中降下・突撃旅団指揮官。ウクライナでの戦争に参加しないようベラルーシ軍の兵士たちに呼びかけた――編集部注〕の発言をご覧になりましたか? 彼の姿勢もベラルーシ軍の兵士たちに影響を及ぼしたと考えています。

でも、歴史上、女性の指揮官も多くいましたね。エミリア・プラテル〔=19世紀前半、11月蜂起でポーランド軍リトアニア歩兵連隊の連隊長として戦いを指揮した――訳者注〕やジャンヌ・ダルクのように。

もしそのような役割を担う必要が生じれば、それをやります。しかし、軍人たちにとって権威をもつ人がいれば、その人を横におくほうがよいでしょう。そもそも私たちのたたかいは平和的な抗議、平和的な転換と結びついているのですから。私たちはそれができると信じてきたのですから。

18年の懲役刑を科されたシャルヘイ・ツィハノフスキー(セルゲイ・チハノフスキー)〔=2020年の大統領選に民主派の候補として立候補して逮捕された。ツィハノウスカヤの夫――訳者注〕が、あなたを今も支えてくれるでしょう。

もし夫がそばにいてくれたら、どんなに幸せなことでしょう。彼がもっている力の多くが私には欠けています。人びとをつかんだのは彼であり、彼からバトンを託されたのが私なのです。私は理想的なリーダーではありません。私はたんなるシンボルに過ぎないという人たちもいますし、私のことを政治的な死に体と呼ぶ人たちもいます。しかしまた、感謝のことばもたくさんもらっています。誰でもすべての人を満足させることはできないし、私はそのようなことは望んでいません。私には経験も確かなヴィジョンもないことはわかっています。それでも私は自分の力の及ぶかぎりのことはすべてやるつもりです。

スヴャトラーナ・ツィハノウスカヤは、2020年のベラルーシ大統領選挙に立候補した大統領候補のうちの1人である。もともとは彼女の夫シャルヘイ・ツィハノフスキーが立候補するはずだったが、逮捕されたため、夫に代わって無所属で出馬した。ルカシェンコ側からの妨害を受けながらも大きな支持を集めたが、投票の結果は、ルカシェンコが80.2%を得票し当選、ツィハノウスカヤは9.9%にとどまったと発表された。これに対して不正選挙の疑いがあるとして批判が高まり、大規模な反ルカシェンコのデモに発展し、市民と警官が衝突して多くの参加者が逮捕された。ツィハノウスカヤは隣国のリトアニアに逃れ、ベラルーシの民主派を代表するリーダーとして国外で活動を続けている。

ツィハノウスカヤは、夫が逮捕される前は教師・通訳として働いていて、立候補するまで政治活動の経験はなかった。そのような女性が民主派の指導者となり、各国の首脳と会談し、必要となれば軍の指揮をとる覚悟を語るところに、ヨーロッパ東部の同時代史のダイナミズムを感じる。

ベラルーシの反体制派のパルチザンが国内でロシア軍の活動を妨害し、ウクライナでの戦争にウクライナ側から参加しているのは、ウクライナでの戦争の行方が、ルカシェンコ体制とそれに対抗するベラルーシの民主化運動の将来を左右する問題であると認識されているためである。
参考:「ベラルーシにおけるロシア軍に対する妨害活動」 投稿日: 2022年3月21日

ルカシェンコは、ロシア軍がベラルーシ領内を通過してウクライナに侵攻することを認めたが、現時点までのところでは、ベラルーシ軍自体はウクライナ領内の戦闘に参加していない。今後、ベラルーシ軍がどのような態度をとるかは、ウクライナでの戦争の行方に影響する問題の1つである。インタビュー中でも言及されている、ウクライナ戦争に参加しないように呼びかけたヴァレリー・サハシチクのベラルーシ軍兵士たちへのメッセージ(ロシア語)は、動画で見ることができる。
https://www.wykop.pl/link/6545095/walerij-sachaszczyk-zwrocil-sie-do-bialoruskich-wojskowych/

【SatK】