私たち「自由と平和のための京大有志の会」は、京都大学執行部が進めている国際卓越研究大学への申請に反対します。
国際卓越研究大学の本質は、大学の投資会社化です。大学ファンド10兆円のうち約9兆円は財政融資資金という借金です。この運用利益によって国際卓越研究大学の予算を毎年膨らませようとする、狸もびっくりの皮算用が想定されています。大学への支援期間は最長25年間といわれていますが、南海トラフ地震や温暖化を背景とする水害などの大災害がもたらす影響は考慮されないまま、お金が増えるバラ色の未来が描かれています。
一方で忘れてはならないのは、この本当かどうかもわからぬ運用利益を受け取る代償として、学外からの管理強化だけでなく、稼げないと判断された学問分野や研究者の切り捨て、政府や産業界がのぞむ学問分野への誘導などが今後確実に強化されていくことです。「総長」という役職も廃止され、政財界の有力者たちが最高意思決定機関を構成することになります。こうした管理強化こそが大学ファンド制度や国際卓越研究大学化の真のねらいだといってもいいでしょう。
ここ数十年を振り返っても、政府や関連省庁から大学自治への介入と「選択と集中」方式の採用は、全国の大学の教育や研究を先細らせ、研究者を疲弊させてきました。京大執行部は、国際卓越研究大学に認定されたら「大学が自由にできるお金が増えるのだ」と喧伝しています。ですが、企業等からの外部資金を獲得できなければ助成金も少なくなる仕組みのため、今まで以上に外部資金の獲得に奔走しなくてはなりません。しかも、助成金が予定通り支給される保障もない上に、大学ファンドの元本を守るための資金拠出すら求められています。その拠出した資金が戻ってくるという保障もありません。
現在の京大では、ファンドの獲得を目的とした「挙学一致」が演出され、リスクにまつわる合理的な議論を許さない場へと変わりつつあります。自由の学風は吹き止み、反対意見を述べる自由どころか、議論に参加する機会すらも与えられないまま、沈黙が執行部への賛同に読みかえられています。しかも、申請は大学をまもなく去る人々で決められ、申請にともなう悪弊を四半世紀にわたってこうむりつづける中堅・若手の研究者は蚊帳の外に置かれています。今後、責任を背負わされる彼らの意見を汲むことなく、国際的に「卓越」した大学になれるはずがありません。
「自由と平和のための京大有志の会」は昨年12月に「大学における研究と教育の現場からみなさまへのメッセージ」を発表し、国際卓越研究大学の制度に応募する大学に自省を求めてきました。しかし、今年3月末の締め切りに向けて、京大執行部はなおも強硬に申請をすすめようとしています。この申請の先に本当に京都大学にとって相応しい未来が待っているのでしょうか。政府が恣意的な評価指標にもとづいて運営費交付金に「メリハリ」をつけるようなことを止めさせ、安定的な予算をもとに、大学で働く人びとが安心して教育や研究に携われる環境をととのえ、多様な学問を市民に提供していくことが大学としての本来の使命であり、長い目で見て教育や研究を充実させることになるはずです。大学がギャンブル依存症になる前に、申請に向けた動きをいま一度見直し、議論を学内構成員へと開くなかで、ファンドありきではない大学や学問の未来を考えていくべきだと考えます。
2023年3月
自由と平和のための京大有志の会